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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)189号 決定

抗告人 山田隆敏

抗告人 山田み

右両名代理人弁護士 飯沼允

抗告人 平井保

右代理人弁護士 猪股喜蔵

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

理由

一、抗告人山田隆敏、同山田みの抗告理由は別紙(一)のとおりであり、抗告人平井保の抗告理由は別紙(二)のとおりである。

よって検討するに、記録によれば、本件競売申立ては、債権者株式会社静岡相互銀行が抗告人山田隆敏所有の別紙物件目録(1)ないし(8)記載の各土地、同(9)記載の建物及び抗告人山田み所有の同目録(10)記載の建物につき有する共同根抵当権に基づくものであるところ、原裁判所は右物件全部につき競売開始決定をし、所定の手続を経た上、右各物件中同目録(2)、(4)、(5)記載の各土地にまたがって存在する同目録(9)記載の建物及び同目録(1)、(2)、(5)、(6)、(8)記載の各土地にまたがって存在する同目録(10)記載の建物のみを各別に最低入札価額を定めて入札払に付し、抗告人平井保に対し右各建物の競落を許可したことが認められる。

ところで、競売裁判所は、同一債権を担保するため数個の不動産に設定された共同抵当権の実行として右数個の不動産につき競売の申立てがなされた場合であっても、各不動産毎に最低競売価額を定めて個別に競売をなすのが本則であるというべきである。ただ、建物とその敷地に共同抵当権が設定されている場合その他数個の目的物件が位置、形状、構造、機能の諸点より客観的、経済的に観察して有機的に結合された一体をなすものとみられる場合には、数個の目的物件を一括評価して実施するいわゆる一括競売の方法(以下(イ)の方法という。)によるか、あるいは数個の目的物件を各別に評価してその各最低競売価額を定めた上、これを同時に競売に付し、同一人に競落させる方法(以下(ロ)の方法という。)による方が債権者、債務者、物件所有者、後順位抵当権者等の利害関係人にとって有利である場合もありうるところであり、このような場合、一般に任意競売事件にも準用されると解される民事訴訟法六七五条一項に反することなく、かつ、民法三九二条一項の適用等により各抵当権者への配当額を決定する等のため各目的物件についての競売売得金の額の確定を必要とする事情がないときには、競売裁判所としてはむしろ右(イ)又は(ロ)の方法により競売を実施すべきものと解するのが相当である。しかしながら、これを本件についてみるに、記録によれば、本件競落建物二棟の借地権価格を含めた評価額はそれぞれ金一、四四五万一、〇〇〇円、金一、六〇一万六、〇〇〇円であって、その合計額金三、〇四六万七、〇〇〇円は、本件競売申立債権(元金合計金一、八五〇万円の他遅延損害金)、別紙物件目録(1)ないし(7)記載の各土地及び同(9)記載の建物につき日本住宅金融株式会社のために設定されている先順位の共同抵当権の被担保債権(登記簿上金九〇〇万円)、交付要求のあった公租公課(合計金二七万五、一〇〇円)及び競売費用の総額とほぼ見合っており、一方、右各建物に別紙物件目録(1)ないし(8)記載の各土地を加えた本件共同根抵当権の目的物件全部の評価額は合計金四、五三八万六、〇〇〇円ないし金四、五三八万七、〇〇〇円であって、右総額をはるかに上廻っていること、本件共同根抵当権の目的物件には、右のようにその一部に先順位の抵当権が、またその全部について後順位の抵当権が設定されていることが認められる。してみると、本件においては、右各建物の他に右各土地をあわせて前記(イ)又は(ロ)の方法により競売を実施することは民事訴訟法六七五条一項の準用により許されないところであり、特に前記(イ)の方法によることについては民法三九二条一項の適用等の上からも許されないものといわなければならない。抗告人らは、右各建物のみが競落されると、その敷地に法定地上権が発生するため右敷地の担保価値が著しく低下し、利害関係人の利益が侵害されると主張し、なるほど本件競落により別紙物件目録(9)記載の建物の敷地には法定地上権が発生し、また同目録(10)記載の建物の敷地は同建物のための従前の使用権の制約を受ける状態で残されることになるが、このことのみをもっては右各建物の他に別紙物件目録(1)ないし(8)記載の各土地をあわせて競売するにつき民事訴訟法六七五条一項の準用を排除しなければならない特段の事由があるとすることはできず、他に右規定の準用を排除すべき特段の事由のあることを認めるに足りる資料はない。してみれば、原裁判所が本件共同根抵当権の目的物件全部を前記(イ)又は(ロ)の方法により競売しなかったことには何らの違法もないというべきである。

次に、以上述べたように本件においては目的物件全部を競売の対象とすることは許されないところであるが、民事訴訟法六七五条一項に牴触しない限度で本件競売申立債権等の総額を償うためには、原裁判所がとった措置(これによれば前記のように別紙物件目録記載の各土地のほとんどが法定地上権等により制約を受けることとなる。)の他に、抗告人ら主張のように建物の競売を一棟にとどめ、これにその敷地を適宜組み合わせて競売し、同一人に競落させること(ただし、これらを一括評価して実施する一括競売の方法によることは先に認定したように先順位、後順位の抵当権者が存在する関係から許されないものというべきである。)も考えられないではない。しかしながら、記録によれば、抗告人ら主張の方法、すなわち別紙物件目録(9)記載の建物と同目録(3)、(6)、(7)記載の各土地を、あるいは同目録(10)記載の建物と同目録(1)、(2)、(4)、(5)、(8)記載の各土地を同時に競売し、同一人に競落させたとしても、いずれの場合も同目録(9)記載の建物のために法定地上権が発生する可能性があり、またその他の組合わせをとっても各物件の位置関係から右法定地上権ないしは同目録(10)記載の建物のための従前の使用権によって制約される土地を生ずる可能性は免れ難いところであって、かかる場合原裁判所が右各建物を選択して競売に付し、競落を許可したことをもって利害関係人に著しい不利益を与える違法な措置であるということはできず、他に原裁判所が右以外の組合わせを選択しなかったことを違法とするような事情を認めるに足りる資料も存しない。なお、原裁判所は本件競落建物の最低入札価額を建物のみの評価額によることなく借地権価格を含めた評価額に基づいて定めており、この点においても原裁判所の措置に違法はないというべきである。

二、記録を精査しても他に本件競落を違法とすべき事由は認められない。

三、よって、本件抗告はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用は各抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 横山長 河本誠之)

〈以下省略〉

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